介護・障害福祉の現場で働く職員の処遇改善を目的とした「処遇改善加算」。
令和6年6月には、それまで別々に存在していた3つの加算が「介護職員等処遇改善加算」へ一本化されました。
そして令和8年6月から、制度がさらに拡充されています。
今回の改正では、
など、大きな変更が行われました。
この記事では、令和8年6月からの処遇改善加算について、介護保険と障害福祉の違いも含めてできるだけわかりやすく解説します。
処遇改善加算とは、介護・障害福祉分野で働く職員の賃金改善と働きやすい職場づくりを進める事業者に対して、通常の介護報酬・障害福祉サービス等報酬に上乗せして支払われる加算です。
単に「給料を上げればよい」という制度ではありません。
事業者には、
などが求められます。
つまり、
「職員の給与を改善するとともに、長く安心して働ける職場をつくっていくための制度」
と考えると分かりやすいでしょう。
今回の改正で特に重要なのは、次の3点です。
従来は介護職員を中心とした処遇改善制度でしたが、令和8年度改定では対象が「介護職員」から、より幅広い介護従事者へ拡大されました。
介護の仕事は、介護職員だけで成り立っているわけではありません。
看護職、リハビリ職、相談員、事務職など、さまざまな職種が連携することでサービスが成り立っています。
今回の改正は、こうした介護現場全体を支える職員の処遇改善を進めていく方向性を、より明確にしたものといえます。
令和8年5月までの処遇改善加算は、
Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ
の4区分でした。
令和8年6月からは、
| 上位 | 加算区分 |
|---|---|
| 1 | Ⅰロ |
| 2 | Ⅰイ |
| 3 | Ⅱロ |
| 4 | Ⅱイ |
| 5 | Ⅲ |
| 6 | Ⅳ |
という6区分になりました。
ここで少し分かりにくいのが「イ」と「ロ」です。
一般的な書類では「イ→ロ」の順番を見ることも多いため、「イの方が上なのでは?」と思われるかもしれません。
しかし今回の処遇改善加算では、
Ⅰロ > Ⅰイ > Ⅱロ > Ⅱイ > Ⅲ > Ⅳ
という関係になります。
「ロ」は、「イ」の要件を基本として、さらに生産性向上や協働化などの追加要件を満たした事業所に対する上乗せ区分です。
介護保険の場合、「Ⅰロ」「Ⅱロ」を取得するためには、通常のⅠ・Ⅱの要件に加え、令和8年度に設けられた生産性向上・協働化に関する特例要件を満たす必要があります。
代表的には次のような取組です。
ケアプランデータ連携システムを利用すること
生産性向上推進体制加算ⅠまたはⅡを取得すること
社会福祉連携推進法人に所属すること
などです。
令和8年度については事業者の事務負担にも配慮されており、一部については申請時点では「年度内に利用・取得する」という誓約によって算定できる取扱いがあります。
ただし、誓約だけで終わるわけではありません。
必要な取組を実際に行い、実績報告までにその実績を報告する必要があります。
令和8年6月以降の訪問介護を例にすると、処遇改善加算率は次のようになります。
| 区分 | 加算率 |
| Ⅰロ | 28.7% |
| Ⅰイ | 27.0% |
| Ⅱロ | 26.6% |
| Ⅱイ | 24.9% |
| Ⅲ | 20.7% |
| Ⅳ | 17.0% |
例えばⅡイからⅡロへ移行すると、
24.9% → 26.6%
となります。
ただし、加算率はサービスの種類によって大きく異なります。
訪問介護の数字を、そのまま通所介護やグループホームなどに当てはめることはできません。
令和8年6月から、これまで処遇改善加算の対象外だった一部のサービスにも加算が新設されました。
代表的なものは次のとおりです。
| サービス | 加算率 |
| 訪問看護(介護予防を含む) | 1.8% |
| 訪問リハビリテーション(介護予防を含む) | 1.5% |
| 居宅介護支援・介護予防支援 | 2.1% |
介護職員だけではなく、介護サービスを支える幅広い職種の処遇改善を進めていくことが、今回の制度改正の大きな特徴です。
処遇改善加算は、上位区分になるほど求められる職場づくりの水準が高くなります。
大まかに整理すると次のようになります。
| 主な要件 | Ⅳ | Ⅲ | Ⅱ | Ⅰ |
| 月額賃金改善 | ○ | ○ | ○ | ○ |
| キャリアパス要件Ⅰ・Ⅱ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 昇給の仕組み | - | ○ | ○ | ○ |
| 一定水準以上の賃金となる職員 | - | - | ○ | ○ |
| 介護福祉士等の配置 | - | - | - | ○ |
| より高い職場環境改善 | - | - | ○ | ○ |
そしてⅠ・Ⅱについて、さらに生産性向上等の追加要件を満たした場合に「ロ」を取得できる、というイメージです。
処遇改善加算を理解するときに欠かせない言葉が「キャリアパス要件」です。
簡単に言えば、
「この会社で働き続けた場合に、どのように成長し、どのように給与や役職が上がっていくのかを仕組みとして整えていますか?」
という要件です。
主にⅠ~Ⅴまであります。
職位・職責・仕事内容・任用条件・賃金体系を明確にする
職員の研修や能力向上のための仕組みを整える
経験・資格・評価などに応じて昇給する仕組みをつくる
一定額以上の賃金となる職員を配置する
一定の資格を持つ職員を配置する
上位の加算になるほど、より多くのキャリアパス要件を満たす必要があります。
処遇改善加算では給与だけでなく、職場環境そのものを改善しているかも評価されます。
職場環境等要件は、大きく次の6分野に分かれています。
令和8年度の制度では、特に生産性向上に関する取組が重視されています。
単純に「業務を速くする」という意味ではなく、
などを通じて、職員が働きやすく、利用者へのサービスの質も高められる環境を目指します。
非常によく似ていますが、同じ制度ではありません。
介護保険では、
「介護職員等処遇改善加算」
障害福祉では、
「福祉・介護職員等処遇改善加算」
と呼ばれます。
令和8年6月以降はいずれも、
Ⅰイ・Ⅰロ・Ⅱイ・Ⅱロ・Ⅲ・Ⅳ
という6区分ですが、細かな取得要件は異なります。
特に注意が必要なのが、
です。
キャリアパス要件Ⅳでは、改善後の賃金が一定額以上となる職員を設けることが求められます。
令和8年度では、
| 制度 | 金額基準 |
| 介護保険 | 年額440万円 |
| 障害福祉 | 年額460万円 |
と異なります。
名称が似ている制度だからこそ、介護保険のルールをそのまま障害福祉に当てはめないことが重要です。
さらに注意したいのが、障害福祉のⅠロ・Ⅱロです。
介護保険の「ロ」では、ケアプランデータ連携システムや生産性向上推進体制加算などが中心となります。
一方、障害福祉では、生産性向上に関する職場環境等要件のうち一定数の取組を行うことなどが求められ、特に、
⑱ 現場の課題の見える化
㉑ 業務支援ソフト・情報端末の導入
が重要な必須項目となっています。
同じ「Ⅱロ」という名前でも、
介護保険のⅡロと、障害福祉のⅡロでは取得方法が異なる
ということです。
介護保険と障害福祉の両方を運営している法人では、特に注意しなければならないポイントです。
さまざまな要件がありますが、処遇改善加算の大前提は変わりません。
受け取った加算額以上の賃金改善を実際に行うこと
です。
令和8年度の計画書でも、加算の見込額以上の賃金改善を行うことが基本となっています。
また、一定額以上は基本給や毎月支払われる手当などの「月額賃金」で改善することが求められています。
そのため、
「加算を取得したから会社の利益が増える」
という制度ではありません。
加算を活用して職員の処遇を改善するとともに、キャリア形成や働く環境の改善を進めていく制度です。
処遇改善加算では、
といった、実態を伴った取組が必要です。
申請書にチェックを入れているだけで、実際の取組や記録がなければ適切とはいえません。
制度を正しく運用するためには、「規程をつくる」「実施する」「職員に知らせる」「記録を残す」の4つをセットで考えることが大切です。
今回の改正を簡単にまとめると、次のようになります。
① 処遇改善の対象が幅広い介護・障害福祉従事者へ拡大
② Ⅰロ・Ⅱロという上乗せ区分が新設
③ 生産性向上や業務効率化の取組をより重視
④ 訪問看護・訪問リハ・居宅介護支援などにも介護保険の処遇改善加算を新設
⑤ 介護保険と障害福祉は似ているものの、取得要件には違いがある
処遇改善加算は「職員の給料を上げるためだけの加算」と捉えられがちですが、本来はそれだけではありません。
職員が成長できる仕組みを整え、働きやすい職場をつくり、その結果として介護・福祉サービスの質を高めていく。
これが処遇改善加算の大きな目的です。
介護・障害福祉業界では、職員の確保と定着が大きな課題となっています。
処遇改善加算を適切に活用し、
「給与」だけでなく「働きやすさ」「成長できる環境」「業務負担の軽減」まで含めて職場を改善していくこと
が、これまで以上に重要になっています。
株式会社クオリスでは、今後も制度改正の内容を確認しながら、職員が安心して長く働ける環境づくりと、より良い介護・福祉サービスの提供に取り組んでまいります。
本記事は、厚生労働省が公表している以下の令和8年度関係資料等をもとに作成しています。
※本記事は令和8年8月時点の制度内容を分かりやすく整理したものです。実際の加算の算定・届出にあたっては、最新の厚生労働省通知・Q&A及び各指定権者の案内をご確認ください。